小児外科医 松永正訓

妊婦の血液を採取して、AFP(=α‐胎児性たんぱく)など4種類のたんぱくやホルモンの量を検査すると、ダウン症(21トリソミー)、二分脊椎、18トリソミーの赤ちゃんが生まれる確率がどれくらいあるかを予測することができます。

これをクアトロマーカーテスト(母体血清マーカー診断)と言います。私たち夫婦はこの検査を受けた経験があります。

流産と死産を経て第2子懐妊 39歳の高齢出産に…

妻は私より2歳年下で、33歳のときに第1子を産みました。34週の早産でした。低出生体重児の長女は、町の産院からこども病院のNICU(新生児集中治療室)へ救急車で搬送され、私も救急車に同乗しました。

その後、妻は流産と死産を経験し、赤ちゃんを子宮内に保持する機能が弱いことがわかりました。どうしても第2子が欲しく、なかなか妊娠しないため、夫婦で不妊治療クリニックにも通いました。

そして、妻は38歳で懐妊。39歳で子どもを産むことになりました。高齢出産です。

39歳の妊婦からダウン症の赤ちゃんが生まれる確率は、およそ140分の1です。医学書を開いてこの数字を見ているうちに、「さて、どうしようか」と思いました。

ダウン症の子どもであれば、それはそれで受け入れるつもりでした。しかし、職業柄というのか、わからないことがあると、どうしても知りたがってしまうのです。

おまけに40歳になった私には、大学病院勤務の小児外科医として、若手の頃とはまるで違った多くの責任が肩にのしかかっていました。

ダウン症児を授かった場合、どうやって育児と仕事を両立するか、真剣に考える必要がありました。ですから、できる検査はちゃんと受けておかないと無責任であると思い込んでしまったのです。

「本当は中絶するための検査じゃないの?」
夫婦で相談した結果、妻もこの検査を受けることに同意しました。産科を受診して血液を採取してもらい、私たちは結果を待ちました。これが苦しみの始まりでした。

妻が言います。

「そもそも140分の1ってどういう意味? 私、140人も赤ちゃんを産まないよ。140人の中に1人しかいないならば、それってほとんどゼロでしょ?」

私はうなずきました。

「そうだよね。だけど、その1人が最初にくるかもしれない。検査して、確率が140分の1から、1400分の1とかに下がってくれれば、安心して赤ちゃんを産めるじゃないか」

妻は考え込みました。

「じゃあ、もし、14分の1に上がってしまったらどうするの?」

私は返答に窮しました。

「大したことないよ。14分の13は健常児なんだから」

すると、妻は少しいらいらした表情になりました。

「じゃあ、何のために検査したの? 14分の1でも、1400分の1でも、1は1でしょ? この検査って、安心するための検査じゃなくて、本当はダウン症の赤ちゃんを中絶するための検査なんじゃないの? 私、中絶なんて絶対にしない。そんなことを考えると頭が変になりそう」

そう言って妻は、検査を受けた後悔から涙ぐみました。私は、自分の思慮の浅さに初めて気が付きました。

生命を選択する行為の第一歩
後日、私は、産科の先生からクアトロマーカーテストの結果を聞きました。140分の1よりも低い数字でしたが、もはやその数字は、私たち夫婦には意味のないものでした。

私は、クアトロマーカーテストを通じて二つのことを学びました。まず一つは、確率はどこまでもいっても確率に過ぎず、家族はその解釈に苦しみ、何の解決にもならないということです。

そしてもう一つは、この検査が、羊水検査の「露払い」になっているという事実です。「もし胎児がダウン症ならば中絶する」という確固たる意志を持っている夫婦が、

まず大まかな情報を得るためにクアトロマーカーテストを受けるのでしょう。そして、年齢から想定される確率よりも検査結果で得られる確率が高ければ、羊水検査を受けるのでしょう。

生命を選択するという行為の第一歩が、クアトロマーカーテストなのです。私たちは、そういうことをまったく理解しないままに検査を受けてしまったのです。

今日では、おそらく遺伝カウンセラーが、この検査について詳しい説明をしてくれるはずです。2002年には、そういったカウンセリング体制が、私の勤める大学病院にはありませんでした。

産科の先生も、私が小児外科医だからクアトロマーカーテストの意味を正確に理解していると思ったに違いありません。しかし実際は、安易な気持ちで検査を受けてしまったのであり、今は後悔の念しか残っていません。


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ネットの反応

1.
この先生の記事時々読んでたけど、難病の子の親にすごく親身になったり厳しい事言っててもやっぱり他人事の目線だったんだなって思った。

医療の最先端にいる人でさえこうなんだからこそ命の選別も含めて夫婦で悩み抜いた末の選択は平等に尊重されるべきだし、安易に口を挟まない方がいいんじゃないかな。

2.
高齢出産だった私もこの検査を受けましたが 結果待ちの間に夫婦で出した答えは もしダウン症の確率が非常に高くても お腹の赤ちゃんの生命力が高く出産に至るのであれば 産もうと決めました。
その為に色々な準備も心構えもできますし。なので 諦めるきっかけになる検査かもですが 私的には中絶する為の検査ではありませんでした。いずれにせよ 生命の選択をするのは難しい問題ですね。
3.
羊水検査はリスクがあるから、陽性なら諦めるつもりじゃないと、なかなか受ける気にならない。
でも、クアトロマーカーの何がダメなの?
羊水検査に進むかどうかの判断材料にはなる。
今なら血液検査もある。(松永先生夫妻がクアトロマーカーを受けたのは20年前として…当時は新型テストは無かったのかな?)
先進諸国では、35歳以上の妊婦にはクアトロマーカーを義務付けしていることもある。血液検査も日本より安価で気軽に受けられる。こうした国では、検査を受けるかどうか、結果をどう受け止めるかは個人の問題だと考えられている。
日本は、検査を受けて妊婦と配偶者が悩むところにまで医療が踏み込んで、善し悪しを語る。
そこは求めてないんだけど…と思う人も多いのでは。
4.
見出しのニュアンスと違うと思う。
どう読んでも医師である夫が先走って奥さんに提案してる感じ。
流産や死産を乗り越えやっと妊娠できたのに、
医師である夫からあれやこれやこんな感じでいわれたら、奥さんが参ってしまいますよね。
しかも自分の仕事優先でもし生まれた子供にしょうがいがあったらどうしようとか考えてるし。

こういう夫に振り回されるのは嫌ですね。

5.
難しい問題です。自分に置き換えて考えてみても・・。なかなか授からずようやく会えることになった子供。
検査を受けて陽性だった時、決心していたとしても本当にすんなり中絶できるか、気持ちが揺らぎそう。そして、これで良かったのか自分に問う日々。
一方で、検査を受けず、もしも障害を持って生まれてきた子供を持ったとして、そこでまた自分を責める。この子には経験させなくても良かった辛い人生を歩ませてしまったのではないか、と。
どちらにしても、どんなに考えて出した結論でも悩み続けるだろう・・。正解とかいうことじゃなく、選んだことを受け入れていくしかない・・つらいですね。
6.
小児科医が出生前診断を「安易に」と言ってしまうのはどうかと思う
これから受けようと思う人達が尻込みしてしまう事にならないか
中絶目的ではなく、ダウン症の子が産まれる前になるべく準備しておきたくて受ける人もいるのに
7.
医者でも専門外のことなんて分からないことだらけ。
ましてや女心や個人の価値観なんて、永遠に解けない数式と変わらない。
男ならこんな感じになるの普通だと思う。職業関係なく。
8.
ダウン症の子供を育てるのは大変さは風邪ひきの子供を相手する延長ではない。検査を受けないのは美談ではない。
9.
>「本当は中絶するための検査じゃないの?」
遠回しな言い方をする今の情報媒体にそってなんとなく検査を受ける夫婦も、いずれ重い判断を持たされていることにたどり着きます
例え妊婦が20才でも可能性はゼロではありません
元々は普通の夫婦には何も考えずに幸せな期間のはずだったのに、自分の子人の生死の判断を世に示せと言われ、是非に関わらず選択肢を持たされることになります
それが自由の選択だったとしても、今人知れずたくさんの夫婦が眠れない夜を過ごしているのです
10.
障害児いらないとか、可哀想とか…どこまで自分目線な人たちなんでしょうかね。
それと、人の命に上下はないのに、その上からはなんでしょうか?
誰しもいつ障害を持つ身になるか分からないじゃないですか。事故とか病気とか…。
上からな考えしか持てない可哀想な人たちは、是非検査受けて下さいね。
生まれてくる子供がそんな考えの元の親に育てられるのは不幸ですから。
11.
クアトロテストがではじめた時に、
このような問題は提起されていたと思うがなぁ。
新生児医療のドクターで この考え方は、浅慮だな、、、。
自分のことになると冷静になれない気持ちは少し分かるけど、
ホントに大学で新生児医療してたんですか?
12.
どんなに障害があろうが産むと決めてても
確率が高いなら事前に産んだ子の生活面を
人一倍真剣に勉強しておけるんじゃないかな?

事前に下調べしてこれからの状況を検討しておかないと
いざ産んでから障害があると知ってパニックやノイローゼになり
育児放棄や虐待してしまう人がいると思う。


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13.
難しい問題だけど、、街で見かける高齢の親が背格好が変わらない障害をもった子供を連れている姿を見ると、大変だな。。 と思う。。。
14.
たとえ生まれた時に障害がなくても、その後の人生、何が起きるか誰も分からない。
お腹にいる時にダウン症だと分かれば中絶する人は、もし産んだ後に違う障害や大きな病気になってしまったら、産んだ事を後悔するのかな?
15.
今、1年生になる子供を妊娠中にテストをうけました。

三人目だったこともあり、ダウン症なら産まないと決めてテストを受けました。

テストの際、カウンセラーの方から、

・夫婦で結果を聞きにくること
・確率がいくつなら羊水検査を受けるか夫婦で話し合うこと

など、いくつか条件を提示され、気軽に受けた私は衝撃を受けたのを覚えています。

安易な気持ちでテストを受け、命の選別をしてはいけないことを学びました。

テスト前後のカウンセリングなどは、絶対に必要不可欠なことだと本当に思います。そして、それを夫婦で話し合い、受け止めることが、とても大切だと思います。

16.
ダウン小児が産まれてくる確率が高ければそれなりに準備できる。最初から中絶する意思はない。なにも矛盾はないと思うのだが。松永さんは途中から自分の気持ちが変わってきたことに気づいてしまったということでしょうか。
17.
検査を受けずに生んで、ダウン症の子が生まれて来たら後悔しなかったのだろうか?
きっと検査を受けた時より遥かに後悔したと思う。

命の問題云々ではない。
ダウン症として生まれた子供が人生でどれだけ地獄を見るか。
親の為だけではなく、子供の為に検査を受けるべきだと思う。

18.
こんな医者やだ
19.
妊娠したら羊水検査を必ず受けさせ
ダウン症陽性なら即刻堕胎させる法律を作れ。
生まれてくる子供が障害児と分かっている
日本人はいらない。
障害児に血税を使う意味はない!
20.
検査については調べればいいのに何で怠るのか?スマホでも調べられる。

あと、奥さんの発言がどうも気になる。

>私、140人も赤ちゃんを産まないよ。140人の中に1人しかいないならば、それってほとんどゼロでしょ?

あなたは、何分の何からほとんどゼロなの?

21.
医者なのにね?
22.
こういうことってその人の考えによって変わりますね。
うち夫婦は羊水検査受けました。陽性なら諦めるつもりでした。
ダウン症なら生まない、それでと生むは個人の自由なのでどちらも批判されることではないと思います。
23.
これからの人生大変やなあと思うわ


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