この後ろ姿、女の子であることを疑う人はいないだろう。
だが、今まさに髪を切ろうと鏡に向かっているのは、なんと小学3年生の男の子だ。
彼がここまで髪を伸ばしたのには、ある理由があった。静かなる決意
2016年、春。小学校に入学して間もない関根連夢(れむ)くんは、母親の絢さんが見ていた動画を何気なく覗き込んだ。動画を見終えると、連夢くんの口から次から次へと質問が飛び出した。「なんで髪の毛がなくなっちゃうの?」
「日本にもがんの子どもはいるの?」
「日本のテレビでは、こういうCMをしていないよね?」その動画とは、スペインで制作された小児がん患者への理解と支援を訴えるコマーシャルだった。
がんという病気の存在、抗がん剤治療の副作用によっては髪が抜け落ちてしまうこと、絢さんは連夢くんの質問に答えながら、「知っていれば、できることもあるのよ。ほら、この子もそうだったみたい」と、次にオーストラリアの“小さなヒーロー”の記事を読み聞かせた。
それはオーストラリアで8歳の男の子が、小児がんの子どものために約2年半もの間、髪を伸ばし、その髪を寄付したヘアドネーションの活動を紹介するものだった。連夢くんは「男の子でも、できるんだ!」「女の子よりも長いね」と話しながら、記事中の写真を何度も見ていたという。
ヘアドネーションとは、がんなどの治療や外傷、先天性の欠毛症(無毛症)や脱毛症などの理由から、
頭髪に悩みを抱える子どもたちのために、髪の毛を寄付し、医療用ウィッグを作製・無償提供する活動だ。日本でも、この活動の輪が徐々に広がりをみせている。
ただし、医療用のウィッグをつくるには最低でも31センチの長さが必要になる。JIS規格に適合した医療用ウィッグは、髪の毛を半分ほどの長さで折り返すようにして一本一本結びつける製法で作られている。抜けにくく、頭皮への刺激を減らすためだ。
この製法では、31センチの髪から、およそ15センチのボブスタイルのウィッグができる。ロングスタイルのウィッグをつくるには、
さらに50センチ以上の長さが必要だ。そして、1人分のウィッグをつくるためには20~30人ほどの髪の毛が必要になるのだ。
寄付の先にある笑顔
寄付された髪だけで作製したメディカルウィッグを、18歳以下の子どもたちへ無償で提供する「JHD&C」という日本唯一のNPO法人がある。JHD&Cは2009年からこの活動を行っている。連夢くん、絢さんもこの協会に賛同するサロンを通じて、寄付を行った。
寄付された髪がウィッグとして生まれ変わるまでの過程はJHD&Cのホームページで詳しく紹介されている。同法人に送られてきた髪は、長さごとに仕分けされ
、トリートメント処理を経て、ウィッグメーカーに送られる。ちなみに”トリートメント”といっても、普段のシャンプー・トリートメントのそれではなく、キューティクルを取り除くための薬品処理に始まり、15工程もの手間をかけた処理がなされている。
そして、ヘアドネーションの先にあったのは、達成感に満ちた連夢くんのとびきりの笑顔だった。しばらくお風呂あがりは「拭いたら乾いた!」と久々の感覚を喜んでいたそうだ。
連夢くんの他者に寄り添おうとする優しさ、行動する勇気。そして彼の挑戦を温かく見守った周囲の人々。髪をウィッグへと生まれ変わらせる人々。そんなたくさんの人たちの思いが連なって、頭髪に悩みを抱えている子どもたちに笑顔を届けている。
参考:JHD&Cの公式Facebookでは、一人ひとりに最適なウィッグを作るための頭の型取り(メジャーメント)の様子など、寄付された髪がレシピエントの方々にウィッグとして届くまでの過程が報告されている。
【取材協力・写真提供】関根絢さん、関根連夢くん
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181016-00008071-toushin-life
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