認知症の人が病気やけがの治療で一般病院に入院した際、事故防止を理由に手足などを縛られる身体拘束。入院患者のほぼ3割が拘束を受けているとの調査結果もある。医療現場の苦悩と改善への動きを報告する。
午後7時を過ぎても、2階と3階の病棟はざわめいている。東京都内の約60床の一般病院で、当直の院長に同行した。患者は70歳代後半から90歳代が中心だ。入院の理由は様々だが、認知症の人が多く、4人に1人は何らかの拘束を受けている。
2階の4人部屋に入ると、肺炎で有料老人ホームから移ってきた認知症の男性(78)が、機嫌よく話しかけてきた。「さっきビールを飲んだ」「外で弟が待っている」。院長が、男性がかつて労働組合の役員だったことに話題を振ると、男性はつながらない内容をうれしそうに連ねていく。
男性の胴はベルトでベッドに固定されている。ベッドには柵がはめられ、自分では下りられない。尿道にチューブが入っているため、服の中に手を入れて引き抜かないよう、上下がつながった服を着る。点滴する時は左腕。利き腕の右の手首はひもで柵に縛られる。熱は下がり、退院の日は近い。
転倒、骨折…暴れる患者
院長の当直は月8回ほど。当直医は1人で、救急車も受け入れる。夜間の病棟の看護師は各階に1人ずつ。看護助手は2人ずつの体制だ。入院患者のトラブルは一瞬で起きる。転倒して打撲や骨折をしたり、点滴チューブを引き抜いて服が血まみれになったり、ベルトで胴を拘束されたのに、すり抜けて、ベッドから出て転んだり……。
「助けてくれー」「外してくれー」。暴れる患者を拘束しようとすると、そう叫ばれることがある。興奮が収まらない場合は、睡眠剤を注射して眠ってもらう。
身体機能が低下した高齢者は薬の成分が朝まで残り、ふらついたり、食欲が落ちて朝食も薬も口にしなかったりするなどの悪循環も起きる。それでも、身体拘束を行わざるを得ない。これも病院の一面なのだ。
院長は研修医時代、勤務先の約300床の病院で、認知症の人への身体拘束の多さに驚いたという。以来、医療界の「拘束はやむを得ない」という認識は変わっていないと感じている。
拘束によって身体機能がさらに弱り、「自分で徘徊(はいかい)できた人ができなくなる。自分で転べた人が転べなくなる」のを見るのはつらい。
認知症の人は、認知機能は低下しても、「嫌だ」「悲しい」といった感情は残っている。拘束は強いストレスになる。生命維持に不可欠な時以外、拘束はできる限り減らしたい。だが、その実現は難しいと思う。
引用元: https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181106-00010000-yomidr-sctch
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